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皇族—天皇家の近現代史

小田部 雄次
中央公論新社
発売日:2009-06


この本は、明治維新〜現在までの、皇族についてかなり網羅的に書かれた本であって、おそらくあまり他にない目の付け所で、貴重な記録である。皇室ゴシップ的なおもしろさで読むことも出来る。



我々は皇族というと、つい現在の天皇家を考えてしまうが、戦前は皇族の範囲はもっと広かった。彼らは特権を持っていたが、基本的に軍人になるという社会的な使命も負っていて、独特な存在で、それなりの影響力もあった。しかし、戦後の皇室典範の改正により、過酷な財産税も科せられ、臣籍降下される。その運命は興味深い。



また、皇室に関する記述も多く、天皇の素顔を垣間見ることができる。天皇跡継ぎ問題についても言及がある。著者ははっきりとは書いていないが、女系への跡継ぎが可能であるような制度の見直しを支持しているように思える。

「理工系離れ」が経済力を奪う

これは、ORと金融工学の研究者である著者が、東工大・東大などの実体験に基づいて、理系大学の現状について憂える、といった内容である。



理系大学は戦後の日本を支えていて、豊かな成果を残した。しかし、理系人間は会社では出世できず、給料は銀行の7割、会社でも大学でも発言権を持っていなかった。大学は近年大幅に予算を削減されて、寄付による豊富な資金力を持つアメリカの大学と対等に戦うのは難しい。学生はそんな理系の状況をわかって、経済学部などに流れている。・・・等といった内容である。



経験に基づいており、内容はおもしろく、あっという間に読めるが、著者の主張には多少首をかしげるところもある。理系大学がそれほど重要な役割を果たしたのかは確かではないし、文系人間への恨み辛みを並べているような気もする。タイトルは中身をあまり適切に表していない。理工系離れが経済力を奪う根拠は示されない。

米グーグルも電子書籍販売 10年から、まず50万冊

電子書籍にいよいよ大御所が登場。形式はどうなるのか?

米グーグルも電子書籍販売 10年から、まず50万冊  

【フランクフルト=下田英一郎】ネット検索最大手の米グーグルは15日、インターネットで電子書籍をダウンロード販売する「グーグル・エディション」を来年前半にも開始することを明らかにした。グーグルのサービスは専用端末を必要とせず、ユーザーが持つパソコンなどに書籍内容を取り込めるのが特徴だ。  グーグルはまず、電子書籍の著作権問題で合意を得た約50万冊からダウンロード販売を始め、徐々に取扱数を増やす。

From NIKKEI NET(日経ネット):国際ニュース−アメリカ、EU、アジアなど海外ニュースを速報]

日本の書物への感謝

“日本の書物への感謝” (四方田 犬彦)

この本で語られる「日本の書物」は古典である。古事記〜徒然草・・・等なので結構古い作品が多く取り上げられている。近代以降の作品はない。古事記は名前は知っていても、中身はほとんど知らなかったから新鮮だった。著者は博学で優れた読み手という感じだが、自分にはやや深読みのように思われる箇所もあった。

オタク学入門

オタク学入門 (新潮文庫 (お-71-1))

岡田斗司夫

新潮社


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この本は1996年に書かれているが、今読んでもおもしろい。「2001年」の特撮の裏側とか、戦隊モノの放送内容がおもちゃメーカーの販売戦略とリンクしていることや、制作側の目で見る見方を提供している。アニメや映画作成の上での、決まり事・セオリーの重要性を言っているが、これは芸術作品における「制約」の重要性に繋がるだろう。制約の中でいかに自由に振る舞うかで、創造性を得ることができるのだ。

しかし、オタクの定義(そんなものは多分ないが)が、彼の言うものであるかというと、これはよくわからない。彼は立派なクリエーターでオタクの中でもエリート?だろう。また、文庫版あとがきにもあるように、書かれてから10年たって、状況はかなりかわっている。かつてはオタクが独占していた、マニアックで業界裏側的な情報もインターネットですぐに流通し、普通の人でも容易に入手できるようになった。皆オタクになってしまったわけだ。

移民漂流

移民環流—南米から帰ってくる日系人たち

杉山 春

新潮社


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移民問題は関心があるところなので、読んでみた。主にブラジル移民の問題である。かつて戦前・戦後に日本からブラジルへ大量に移民があった、しかし、1990年代になりブラジル経済が悪化し、日本の移民法の改正もあり、ブラジルから日本への出稼ぎが増加した。それには日系人も含まれる。日本に来ればブラジルに比べれば稼ぐことはできるが、様々な問題を招いている。少年就業・いじめ・文化の差・教育・犯罪・等等。しかし、この本は、個別事例をセンセーショナルにあげるにすぎず、移民問題において何が本当の問題なのかが、伝わってこない。

パレスチナ文学:カナファーニー

ハイファに戻って/太陽の男たち

ガッサーン カナファーニー

河出書房新社


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アラブの文学に少しケチを付けたけれども、それでもアラブ文学を一つ何か読んでみようと思った。あの本は、あまりガイド的ではないので、何を読めばいいのか良く分からない。結局amazonのレビューも参考にして、パレスチナ文学であるカナファーニーの短編・中編集を読んでみた。この中では、「太陽の男たち」が傑作だと思った。パレスチナからクウェートへ密出国する話である。とても苦い話だ。また、「路傍の菓子パン」も良い。廃墟で苦しい生活を送る少年と教師の話だ。皆、戦争と侵略という過酷な現実が背景にあるが、それを単に告発するのではなく、その中で起こる様々な矛盾や悲しみを浮き彫りにする。文学として十分にすぐれていると思う。しかし、こんな(かなり深刻な)話をエアコンの効いた部屋で、ソファーに横になって読んでいる自分ってどうよ・・・という気分にはなる。といって、行動するほどの意志もないし、行動すれば良いというものでもないし。

不干斎ハビアン

不干斎ハビアン—神も仏も棄てた宗教者 (新潮選書)

釈 徹宗

新潮社


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不干斎ハビアンとは、1600年前後に生きた宗教家で、禅宗からスタートし、キリシタンの論客として名をはせ、後に棄教して反キリシタンとなった人物である。彼の書いた「妙貞問答」は、キリシタン擁護の書であるが、仏教・儒教・神道・キリスト教の比較宗教論になっている。この時期の日本でこれだけのことを書けたのは画期的だろう。しかし、著者は少しハビアンへの思い入れが強く、肯定的にとらえているが、自分がその引用から少しだけのぞいた感じでは、あまり深い議論とは思えない。キリシタンのバイアスがかかっている分析ではないだろうか。人物としては興味深く、山本七平などの日本研究者も取り上げている。

ベトナム戦争小説

戦争の悲しみ (池澤夏樹=個人編集 世界文学全集 1-6)

バオ・ニン

河出書房新社


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先日紹介した残雪と同じ本に入っていたので読んでみた。日本も戦争では大変だったと思うが、ベトナムは言わば沖縄戦が全国に拡大したようなもので、しかも、同じ民族を二分して戦い、独立闘争のころも含めればトータルで50年近くもかかった壮絶なものだった。著者は北側の人間である。話は、歴戦を生き抜いた戦士から作家になったキエンが自分の過去を自由に振り返るというものである。非常に自由に書かれていて、話はぽんぽんと飛ぶ。一番重要な、初恋の相手であるフォンとのエピソードが、最後のほうで明らかになる。切ない話だ。戦争を厳しい目でとらえた戦争文学の傑作である。

露悪小説:ブコウスキー

ありきたりの狂気の物語 (新潮文庫)

チャールズ ブコウスキー

新潮社


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アルコール・嘔吐・下ネタ・・・満載の露悪的な短編小説集。自分を題材にした私小説的なものもいくつかある。自分は冒頭に収められた「狂った生き物」が一番おもしろかった。これは、「獣姦モノ」であるが、人間描写がなかなかすばらしい。ちょっとしんみりするような小説である。しかし、ずっと読み通そうとすると、ちょっと飽きてくる。玉石混淆という感じだろうか。

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