ホーム » book » 予言者としてのトクヴィル

予言者としてのトクヴィル

アメリカのデモクラシー〈第1巻(下)〉 (岩波文庫)

トクヴィル

岩波書店


このアイテムの詳細を見る

「アメリカのデモクラシー」第一巻の下を読んだ。これは第二部で、一通り完結ということになる。第二巻(上下)は次に読んでみようと思う。第一部は三権の体制論が主だったが、第二部は民主制についてで、本論という感じである。簡潔であることに感心する。多少の冗長はあるが、一つの主張をするのに大きな紙面を割かない。また、語り口が絶妙だ。主張が正しいかどうかおいておいても、かっこいい。多く引用される理由はわかる。ずばずば切っていく感じだ。我々は民主制が当たり前のように思っているけれども、トクヴィルが生きた、むしろ民主制は特殊で、君主制や貴族政治が強い影響力を持っていた時代に民主制をどうみるか、というのは、今の時代からみると(逆に)新鮮だ。

さて、この本は予言の書としても知られている。一番有名なのは、将来アメリカとロシアが世界を二分するであろうという記述である。少し長いが引用してみよう。

アメリカ人は自然がおいた障害と闘い、ロシア人は人間と戦う。一方は荒野と野蛮に挑み、他方はあらゆる武器を備えた文明と争う。それゆえ、アメリカ人の征服は農夫の鋤でなされ、ロシア人は兵士の剣で行われる。
目的の達成のために、前者は私人の利害に訴え、個人が力を揮い、理性を働かせるのに任せ、指令はしない。
後者は、いわば社会の全権を一人の男に集中させる。
一方の主な行動手段は自由であり、他方のそれは隷従である。
両者の出発点は異なり、たどる道筋も分かれる。にもかかわらず、どちらも神の隠された計画に召されて、いつの日か世界の半分の運命を手中に収めることになるように思われる。

これが南北戦争以前に書かれたのだから、すごい洞察だろう。もしトクヴィルが現代のアメリカの姿を見ていたらどう思うか・・・非常に興味があるし、彼が見ることができなかったのが本当に悔やまれる。

一方、南北戦争については、彼は予言していないと言えそうだ。奴隷制度については、自由な労働者よりも生産性が低く、南に追いやられる傾向を指摘している。そして、南部において黒人と白人が衝突する可能性を予測している。しかし、実際にはそうならず、北部と南部が深刻な対立関係となり、アメリカ史上最も多くの血が流れた壮絶な戦いが始まるのである。そのとき、自由は一時忘れられ、北部はリンカーンの独裁体制になる。トクヴィルは、アメリカは独立以来深刻な危機に遭遇していないが、一旦自分達に危機が訪れれば、容易に民主制を捨て、強力な指導者を求めるであろう、という考察をしているが、それは南北戦争において最初に起きたのである。


コメントする

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です

category

archive