分断されるアメリカ サミュエル ハンチントン 集英社 このアイテムの詳細を見る |
アメリカがこんなことになっているとは知らなかった・・・。本は読んでみるものだ(それほど最新ではないけど)。アメリカは元々プロテスタントの国だった。移民はたくさん流入したが、基本的には彼らはプロテスタント的な文化に同化し、新しいアメリカ人になって社会に進出してきた。しかし、(特にメキシコからの)最近のヒスパニック移民の急激な増加は、アメリカに新しい問題を発生させている。ヒスパニックはアメリカ的な文化には溶け込まず、英語も十分に話せず、スペイン語しか使えない。しかし、その数が増加していることと、ヒスパニックから社会的影響力を持つ勢力が出てくることによって、ヒスパニックが母国語の文化を保持し、かつ政治的にアメリカに対して影響力を持つようになっている。また、アメリカのリベラルなエリートが多文化主義的な考え方を持つことから、政策にそれが影響され、特にヒスパニック移民の多い南西部(ロサンゼルス等)などから、二カ国語的な社会が発生している。企業から見てもヒスパニックの市場を無視できなくなっている。二カ国語(英語・スペイン語)ができるほうが、英語だけしかできない人間よりも高給を取れるという状況になっている。
これは、アメリカのアイデンティティの危機である。今やアメリカ的プロテスタントはマイノリティになりつつある。それは人数だけではなく政治的・社会的にもだ。しかし、未来のアメリカを一つにするアイデンティティというのは難しい。もはや人種・宗教はアメリカのアイデンティティではなくなりつつある。自由・平等・民主主義等の理念なのかもしれないが、理念をもって国のアイデンティティとして成功した例というのはあまりない。
ヒスパニックを例にあげたが、他の民族(アラブ人等)も同じような現象が現れている。アメリカで独自な文化を維持し、政治的な力を持ち、政策に影響を与える。アメリカはこれまで移民のバイタリティによって活力を得てきた。しかし、現在、移民により一種の侵略を受けている状況にある。
この本の著者は基本的に、アメリカのプロテスタント的な文化に価値を見いだす保守派の傾向があるが、明確な今後の指針は示せていない。私が日本人として気になるのは、じゃあ日本人はこのグローバルな侵略競争の中で存在感を見せているのだろうか?日本人や韓国人は基本アメリカの勤勉な文化に馴染みやすかったら、自分の文化を割と簡単に捨てて、アメリカナイズしていった。韓国人・中国人の活躍は聞くような気がするが、日本人の活躍はあまり聞かないような気がする。