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アラブの文学

アラブ、祈りとしての文学

岡 真理

みすず書房


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アラブ文学の紹介書だと思って、最初を読むとちょっと面食らう。最初はパレスチナ問題とパレスチナ文学の話が結構続く。アラブ文学の中で、パレスチナ文学って狭すぎない?と思ってしまう。また、パレスチナ問題が深刻なのはわかるけれども、かなり難しい問題であって、イスラエルを非難するだけで解決するとは思えない。しかし、我慢して読んでいくと、エジプトとかいろいろと他の国も出てくる。著者はフェミニズムを専門にしているようなので、それにちょっと偏っているような気もする。いろいろと興味深い事実もあるが、包括的で分析的なアラブ文学への入門にはあまりなっていないように思う。

ショスタコーヴィチ本の決定版

ショスタコーヴィチ (作曲家・人と作品) Book ショスタコーヴィチ (作曲家・人と作品)

著者:千葉 潤
販売元:音楽之友社
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ショスタコーヴィチの生涯について実に詳細に書かれた本。これだけの情報を日本語で読めるというのは大変にありがたい。彼の作品では自然と交響曲が取り上げられることが多いと思うが、この本には彼の作品全般についてロシア語の「一次」(これは大事)文献に基づく様々なエピソードが詰まっている。
ヴォルコフの「証言」の真贋論争にも言及があり、客観的にコンパクトに事実関係が押さえられていて参考になる。
作品については、割と思い切って良い・悪いを評価しているように思える。

中国の不思議小説:残雪

暗夜 (池澤夏樹=個人編集 世界文学全集 全24巻(第1集))

残雪

河出書房新社


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週間ブックレビューで取り上げられたが、読んだ人の中にはとまどっている人もいた。読んでみたが、これはかなり不思議な小説のような気がする。解説では、近い作家として、カフカ・安部公房、等があげられていた。確かに、不条理というか非論理的なところがあるが、ちょっと違うと思われる。自分の印象では、詩的でファンタジーに近いと感じられた。とても魅力的である。こんな小説は他にあまりないのではないだろうか。いくつかの短編が収められていて、甲乙付けがたいが、暗夜が良かったかな。原語(中国語)で読めないのがもったいない。中国おそるべし・・・

フォークナーを読む

フォークナー短編集 (新潮文庫)

フォークナー

新潮社


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フォークナーは20世紀前半アメリカのノーベル賞作家である。彼が描いたアメリカは、南北戦争後の南部である。南部の退廃した生活や暴力的犯罪や独特の風俗を描いており、アメリカを知る上でも興味深い。とりあえず、読みやすい短編を読んでみたが、おもしろい。驚くような習俗(主人への奴隷の殉死とか)もあるが、プライドが高く、ちょっと偏狭な独特な南部人を上手に描いている。南北戦争の傷跡も感じられる。長編もそのうち読んでみようと思う。

読んでいない本について堂々と語る方法

読んでいない本について堂々と語る方法

ピエール・バイヤール

筑摩書房


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本を語るには本を読んではいけない・・・という逆説がテーマの本。この皮肉な感じがフランス人っぽい。しかし、この本は読書の本質を伝えてくれるものだ。まず、単純な事実として、我々は読みたい本をすべて読むことはできない。本の量は膨大だ。また、本を読んだ、という事実はあやういところがある。本の内容はどんどん忘却してしまうし、人により読み方により吸収できることは様々だ。著者は、過去の様々な例(漱石もある)を引いて、本を読むこと自体よりも、読者の内面世界の進化こそが大事であり、「本は完読しなければならない」等のタブーから自由になるべき、と説いている。世界的なベストセラーで、興味深い本だ。

予言者としてのトクヴィル

アメリカのデモクラシー〈第1巻(下)〉 (岩波文庫)

トクヴィル

岩波書店


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「アメリカのデモクラシー」第一巻の下を読んだ。これは第二部で、一通り完結ということになる。第二巻(上下)は次に読んでみようと思う。第一部は三権の体制論が主だったが、第二部は民主制についてで、本論という感じである。簡潔であることに感心する。多少の冗長はあるが、一つの主張をするのに大きな紙面を割かない。また、語り口が絶妙だ。主張が正しいかどうかおいておいても、かっこいい。多く引用される理由はわかる。ずばずば切っていく感じだ。我々は民主制が当たり前のように思っているけれども、トクヴィルが生きた、むしろ民主制は特殊で、君主制や貴族政治が強い影響力を持っていた時代に民主制をどうみるか、というのは、今の時代からみると(逆に)新鮮だ。

さて、この本は予言の書としても知られている。一番有名なのは、将来アメリカとロシアが世界を二分するであろうという記述である。少し長いが引用してみよう。

アメリカ人は自然がおいた障害と闘い、ロシア人は人間と戦う。一方は荒野と野蛮に挑み、他方はあらゆる武器を備えた文明と争う。それゆえ、アメリカ人の征服は農夫の鋤でなされ、ロシア人は兵士の剣で行われる。
目的の達成のために、前者は私人の利害に訴え、個人が力を揮い、理性を働かせるのに任せ、指令はしない。
後者は、いわば社会の全権を一人の男に集中させる。
一方の主な行動手段は自由であり、他方のそれは隷従である。
両者の出発点は異なり、たどる道筋も分かれる。にもかかわらず、どちらも神の隠された計画に召されて、いつの日か世界の半分の運命を手中に収めることになるように思われる。

これが南北戦争以前に書かれたのだから、すごい洞察だろう。もしトクヴィルが現代のアメリカの姿を見ていたらどう思うか・・・非常に興味があるし、彼が見ることができなかったのが本当に悔やまれる。

一方、南北戦争については、彼は予言していないと言えそうだ。奴隷制度については、自由な労働者よりも生産性が低く、南に追いやられる傾向を指摘している。そして、南部において黒人と白人が衝突する可能性を予測している。しかし、実際にはそうならず、北部と南部が深刻な対立関係となり、アメリカ史上最も多くの血が流れた壮絶な戦いが始まるのである。そのとき、自由は一時忘れられ、北部はリンカーンの独裁体制になる。トクヴィルは、アメリカは独立以来深刻な危機に遭遇していないが、一旦自分達に危機が訪れれば、容易に民主制を捨て、強力な指導者を求めるであろう、という考察をしているが、それは南北戦争において最初に起きたのである。

たまにSF:犬は勘定に入れません

犬は勘定に入れません 下—あるいは、消えたヴィクトリア朝花瓶の謎 (ハヤカワ文庫 SF)

コニー・ウィリス

早川書房


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最近ちょっとネタ切れなので、軽めの本を・・・

自分はミステリーやSFをほとんど読まない。基本的には娯楽的な本よりも実用的な本を選ぶ。しかし、最近はちょっとその手の本を読み始めている。先日は、重力ピエロを読んだ。あわせて映画も見に行った。原作の出来は悪くないと思ったけど、映画はややイマイチだった(高校と大学の母校が撮影で使われていた)。で、今回はSFである。イギリス古風趣味のコミカルなタイムスリップものだ。時々、受け狙いな感じが多少うざい気もするが、でもおもしろい。文庫で二冊に分かれているが、前半はほとんど19世紀が舞台で大きな展開がないが、それでも結構読ませる。後半の途中から急展開して終結へ向かう。ぼーっと読んでいたらあれあれという間に終わってしまった。SF的な仕掛けはあったが、あまり味わえなかった。それは著者の責任ではなくて、自分の責任である。もう一回ちゃんと読んでみたほうがよいかも。しかし、非常に都合良くタイムスリップできる感じ(同一時間に二人自分が存在できない制約はある)は、まあ許容できる範囲ではあったが、うーん、どうかな〜という感覚はある。過去に行っていろいろやって、また現代に戻って、また過去に行って都合よく前の過去のちょっと後に出てきて・・・となると、現実はどれ?というか、時間の流れが幾つあるのかわからないというか、そういう疑問を抱く(時間軸に連続な濃度を持った重層的な世界があるってイメージなのかしら)。SF好きから見れば、こだわりのある所ではないかと思われるが、自分にはちょっとわからなかった。

フランス語の偉大さ

フランス語のはなし—もうひとつの国際共通語

ジャン=ブノワ ナドー,ジュリー バーロウ,立花 英裕

大修館書店


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自分は大学でドイツ語だったが、世の中を知るほどに、なぜフランス語を学ばなかったのかのかが悔やまれる。大学で学年で6クラスくらいあったが、ドイツ語は5クラスくらいで、フランス語は1クラスだった。親もドイツ語だったし、数学科の教授はどっちでもいいよと言ったから、何となくドイツ語を選んでしまった。日本はドイツ語に偏りすぎだ。フランス語は今でこそ英語の侵略を受けているものの、世界のインテリの共通語だった。この本はフランス語の偉大な歴史を詳しく書いている。フランス人の言語保護主義もいかがなものかと、昔は考えていたが、これを読むと文化を守る大切な営みであったと思わせる。彼らがフランス語を守らなければ、我々が大好きなフランス映画もなくなっていたのだ。著者はケベック人だ。フランス人でなかったことにより、フランス語至上主義に陥らずに、客観的にフランス語を見ることに成功している。保守主義者は、フランス語の変化を許さないが、著者は、他の言語や時代によるフランス語の進化を肯定している。

ロシアによる周辺民族への搾取

虚栄の帝国ロシア—闇に消える「黒い」外国人たち

中村 逸郎

岩波書店


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ロシアの現在の繁栄(資源安でやばくなっているかもしれないが)は、周辺の貧しい旧ソ連の国々・・・アゼルバイジャン・タジキスタン・キルギスタン等の低賃金労働者によって支えられている。彼らのほとんどは不法就労者である。しかし、行政はまともに正規な労働者として受け付ける気はなく、不法就労は野放しになっている。彼らは、何の保証もなく(契約書すらない)、死んでしまっても人知れず処理されてしまったりすることもある。警察官たちは不法就労を見逃す代わりに袖の下を受け取り、彼らから旅券を奪ったりする犯罪もある。結構センセーショナルな感じで書かれている。著者自身による取材に基本的に基づいているので、リアリティはあるが、一般論としてみてどうかという疑問は多少生じる。この問題は日本にとっても他人事ではない。若年労働力の現象と、不況の長期化で企業が背に腹は替えられなくなったときに、外国人労働者の受け入れの問題は発生するだろう。日本人の数分の一の給料で喜んで働くアジア人はいっぱいいるに違いない。

ポストモダンと自由

自由を考える—9・11以降の現代思想 (NHKブックス)

東 浩紀,大澤 真幸

NHK出版


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日本の現代思想で、東浩紀が出てきたので、ちょっと読んでみました。ものすごくざっくり言うと、現代というのは、目に見えにくい権力(セキュリティのようなもの)によって自由を奪われている。近代的な超越的なものも後退している。このような状況で、思想は力を持てるのか?・・・という感じですかね。東の「動物的」ってキーワードがポストモダンを都合良く説明するキーワードとして出てくるが、そんな都合良いものなのかな・・・と素朴に感じる。思想が力を失っているのは、そうかもしれないけど、オウムとか連続殺人犯とかで、現代を象徴させるって論法は、古いというか、食傷気味というか、特異点で一般論を展開するのって、無理あるんじゃない?と突っ込みたくなる。この本が出たのは2003年だから、イラク戦争も終わって、不況に陥っている今になってみればもはや古いのかもしれない。

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